402号室の鏡像

あるいはその裏側

深見真『ゴルゴタ』

ゴルゴタ―Golgotha

ゴルゴタ―Golgotha

 深見真に銃撃戦と拷問を書かせれば右に出るものはいない。そう確信させる一冊がこれ。

 『ゴルゴタ』を読了した。自衛隊特殊作戦軍という極秘裏に設立させた、日本唯一の実戦思考部隊に所属する主人公が身重の妻を殺され、その復讐の為にヤクザ、ひいては日本政府までも敵に回すーーというシナリオ。
 まさに日本版『ランボー』といった所。国の為に身を尽くした人間が、守った国民、ひいては国そのものに裏切られ、復讐の怒りを爆発されるという点が凄く似ていますが、しかし背景が日本という所をよく生かしていて、日本警察の銃撃戦に対する姿勢の低さや、少年犯罪に対しての刑罰の軽さ、政府からの圧力に対しての脆弱さがよく書かれていて、主人公が戦う理由が加速度的に増えて行き、銃撃戦のカタルシスに繋がるんですよ。
 主人公ひとりが警察特殊部隊を殲滅するなんてリアルじゃないと思いきやそこに現実感を与えるミリタリー設定描写は作者である深見真のお手の物。正直彼はミリタリー描写の監修とかもやれると思う。
 脳内に実写化されるビジョンがありありと出てきたので案外実写化向きなんじゃないの?とか思ったけど自衛隊員が民間人に復讐とか銃器を密輸不法所持とか、拉致した殺人犯の腹を裂いて臓物引き出したりして拷問とか絶対無理だと思い直す。
 でも復讐劇って読んでて気持ちいいんだよな。安易に「復讐は何も生まない!」とか登場人物が言い出さずに、刑事ら他の登場人物も主人公の思想に同情しながらも、それでも殺人を許すわけにはいかないプライドで動いている心理的葛藤がとてもうまく書かれている。
 
 陰惨なストーリーなのに後味が悪くない、ちょっと不思議な感じ。