402号室の鏡像

あるいはその裏側

2015年に読んだオススメ本

今年読んだ中で面白かった小説をベスト5形式で振り返ってみたい。是非皆さんにも読んでみて欲しいので、ネタバレは含まずに書きます。一応、今年出たというより今年に読んだ本なので、古い本もあるけどご容赦を。

2015年に読んだ本ベスト5

1 チャーリー・ヒューマン『鋼鉄の黙示録』

鋼鉄の黙示録 (創元SF文庫)

鋼鉄の黙示録 (創元SF文庫)

 南アフリカを舞台にナード的気質の主人公がオカルト世界にズブズブと嵌り込んでいく内にアメコミ的クリーチャーや政府極秘機関ひいては自分の出生から宇宙的規模の話に広がっていくのがあまりに最高過ぎて脳汁が止まらなかった。クトゥルーとかエヴァを連想させる世界観の広がり方とか、ゾンビ相手にショットガンぶっ放して行くボンクラ感とか、とにかく最高に最高だったので、超伝奇オカルトバトルとかそういうの好きな人は絶対全員読んでくれと言う話。

2 吉上亮『パンツァークラウンフェイセズ

 大規模災害から復興した日本に出来た商業実験都市イーヘヴンで繰り広げられる、サイバーパンク強化外骨格同士のバトルに加え民間軍事企業や傭兵が跋扈していく様子がカッコイイし、翻訳風味の小気味いい文体で心地よいルビ振りをしてくれてるのが快感な小説。SF界隈にて伊藤計劃以後の文脈で語られがちな小説でAmazonレビューは不当に低くなりがちだけどその実この物語の真髄は近未来仮面ライダーである。特撮知識があれば所々にニヤリとさせられる演出や、そもそも「同じコンセプトで開発された兄弟機同士の一騎打ち」のようなベタなシチュエーションバトルが好きな人にとっては絶対お勧め。

3 藤原祐レジンキャストミルク

本当に面白い本というのは最初の一ページで凄さが分かるというけれど、この本がその例に該当すると思う。のっけから正直訳分からん厨二ルビ振りワードの全開で脳味噌を掻き回されていく感覚でおそらく読者がふるいにかけられるのだろうけど、僕の場合あの強烈な世界観に魅せられてしまって、すぐに読み終わってしまった。日常のすぐ裏側に異常が忍びよっているゼロ年代現代伝奇風味の味わいにきちんとギャルゲやラノベの文脈でギャグも挿入されているのが本当に巧くてまさしく、非日常と日常の塩梅が絶妙。だからこそバトルシーンが映えるし、その日常を失いたくない/失った時の絶望感というのがひとしお訴えかけてくるそんな感覚。良い年して厨二病をこじらせてしまった諸君、この小説を読め。

4 らきるち『絶深海のソラリス

 深海×異能力×パニックホラーをラノベで実現させるとは滅茶苦茶凄い作品だと思う。本来深海を舞台にしたモンスターパニックと言ったらハリウッドのB級が定番だろうし、ありふれ過ぎて話題にもならないだろうけど、それをラノベ的美少女と絡ませるのが妙案というか、その発想があったか!という感覚でニヤリとさせられた。序盤でラノベ的展開でフラグを立てまくったヒロイン達が後半深海モンスターに襲撃されて酷い目に遭いながらも、持ち前の異能で撃退していく様も熱いし、それすらも適わない展開になってくるとほんとここからどうなるんだ……と、まさしく先の読めず、一気に読み終えてしまった記憶が強い。個人的にオチが最高なのでぜひ。

5 辻村深月『ハケンアニメ!』

ハケンアニメ!

ハケンアニメ!

 「正直、自分の好きだった辻村深月は終わった」と思っていた時が僕にはあった。ジュブナイル感の強かった作風から恋愛や感動にシフトした作風になってから、あまり好きではなくなった作者で、この作品についても周りが話題にしていなかったりだとか、自分の好きなクリエイターの創作秘話みたいな話じゃなかったりしたら、手に取る事は無かったと思う。(あと当時『SHIROBAKO』というアニメが放映してたこともあった)だけれどこの作品を読んでから辻村深月についての評価は一変した。アニメ製作にかける情熱、世間に理解されないながらもオタクであり続けることのプライドや誇り、ビジネスとしてのアニメ製作、そして地元密着型のタイアップ……など、昨今のアニメ事情を汲んだクリエイター魂に、大人同士の深い人間関係など、漫画的ながらもリアルな人間模様が書いてあって凄く面白かった。自分の中で辻村深月は終わったのではなく、思春期から大人へと、純粋に作風が成長したのだと、素直に認められるようになったきっかけにもなる素晴らしい小説だった。

本当はお勧め映画でも書きたいのだけど、少し時間がないのでこの辺りで……それではみなさん、よいお年を。