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402号室の鏡像

あるいはその裏側

「戦車道には人生の大切なものが詰まっているんだよ」 『ガールズ&パンツァー 劇場版』感想

ガールズ&パンツァー 劇場版 オリジナルサウンドトラック

ガールズ&パンツァー 劇場版 オリジナルサウンドトラック

第63回戦車道全国大会で優勝を飾った大洗女子学園。平穏な日常が戻ってきたと思っていたある日、大洗でエキシビジョンマッチが開催されることになる。いまやすっかり町の人気者になった大洗女子戦車道チームには熱い視線が注がれるが……。

ガールズ&パンツァー 劇場版 : 作品情報 - 映画.com

本編を極上にスケールアップしたボリューム

 『ガールズ&パンツァー 劇場版』を見てきました。

 本編に凄くハマった後に劇場公開が決まってからずっと楽しみにしていて、延期など諸々の不安要素もあったかれど、端的に言って、その全ての不安要素を冒頭数分で吹き飛ばすほどの大傑作だと言う事を確信出来るほどの作品だった。テレビ版では元々日常系美少女アニメのように「萌え」を推したようなキャラクターが、硬派かつ無骨な戦車を操縦し熾烈なバトルを繰り広げると言うギャップが一話の開始冒頭から盛り込まれていて、僕の場合はまずそこでガルパンという作品に首ねっこを掴まれたのだけど、劇場版も同様、劇場の席に座って数分と経たずに、戦車同士が爆走するキャタピラ音と砲撃音、砲弾が耳を掠める風の音に、着弾後の爆発など完全に、この作品の空気に呑まれていた。公開して間もなくから「ガルパン劇場版は実質『マッドマックス 怒りのデス・ロード』*1だった……」とかいう一見わけわからん感想が溢れていたのだけど、本当に最初から最後まで戦車が走って撃って撃破されて後飛んで(!?)の繰り返しだったので、とにかく観ていてダレる場面が一切も無いあたりまさに怒りのデスロードだった。平地戦から山岳部、森林地帯の戦いから市街地戦にシフトして行けば、今度は大洗の聖地の中を縫うように闘う戦車たち。テレビ版よりも多くの協賛を得ているのか、名前入りの有名なホテルや病院、水族館やショッピングモールなど、まさに大洗の全てがバトルフィールドとなるほどのボリュームで、開始数分から手に汗握りっぱなしだった。というかいくら戦車道での損害は助成金が出るとはいえ、派手にブッ壊れ過ぎだろ!と頭の中で突っ込みたくなるくらいの派手な破壊描写や、どう考えても危険な廃墟での戦いなど*2、本当徹底的にロケーションに拘った戦い方で、閉所でのCQBや高所からの偵察など、通常の戦争映画では見られないまさに「戦車道」ならではのイレギュラーな戦車戦が見られて楽しかった。

ベタなくらいにベタな内容。だがそれがいい

 正直に言って、ドラマ性としては本編の焼き直しというか、繰り返しと言っても過言ではない。本編で大洗女子学園廃校の危機を救ったみほ達の努力空しく、公権力の横暴で無かったことになり、また廃校の危機に直面するという物語は完全に本編の繰り返しだし、そこで強豪を打倒さなければならないのもまた本編らしい、というかむしろこのジャイアントキリングこそが『ガルパン』の魅力である。ただ、テレビ版と劇場版で全く違うところがひとつある。今回の大洗女子学園高校というのは、並み居る強敵を打ち倒し、晴れて戦車道全国大会優勝校に輝いたという「実績」があるという所だ。その学校が栄光むなしく廃校になるということは、一体どういう事だろう、ひいてはそれは、戦車道自体の衰退に繋がるとして、かつて彼女らと関わった全てのものたちが、大洗の為に立ちあがるというベッタベタな熱さがある。それがとてもいい。プラウダ、聖グロリアーナ、サンダース、そして黒森峰……かつて大洗と戦い、しのぎを削った強敵が馳せ参じる熱さだけでなく、戦車道のプライドを守るものとして、戦車道連盟並びに西住家までもが大洗女子学園の為にひと肌脱ぐ*3という、まさにオールスター感溢れる内容が、もう闘う前から出来上がっていた訳だ。

西住流VS島田流の戦い

 今回の新キャラである島田愛里寿は、何処か西住みほと類似したキャラクターのように思えた。普段はかわいいものが大好きな年頃の少女*4にも関わらず、戦車道においては砲弾掠める戦場の中でも顔色ひとつ変えない冷静沈着な指揮官*5として振る舞うその姿はまさしく、名門家系を継ぐものとしての振る舞いを心得ているものとしてみほと対峙するキャラクターに相応しい存在だった。*6ただ今回の場合、幾ら名門同士の戦いと言っても、そこにしがらみなど一切存在しない。みほ達大洗女学園側には背負うものがあれど、大学強化指定選手の彼女らには背負うものなど一切無いのだ。あるとすれば強化指定選手としてのプライドだけ。それでも容赦なく大洗を叩き潰そうと迎え撃つその姿勢は、戦車道において一切手加減は無用という、彼女たち自身の戦車道における純粋な姿勢なのかもしれないと個人的には思った。そもそも、戦車道において、勝ち負けは重要な話ではない。武道という側面もある以上、なにより重要なのは勝敗より礼節を尊ぶその精神性だ。勝負にこだわるあのカチューシャでさえも、負けと言う結果を引きずらず、みほ達を勝者と認め今回味方として協力していたし、そういった個人的な感情に拘らず、純粋な勝負が出来る場として戦車道が描かれていた。そう、あの試合は大洗の運命を決める戦いであると同時に、純粋無垢な少女同士の戦車道だったのだ。だからこそお互い、遠慮もいらずに本気になれた。

西住まほシスコン過ぎ問題

 テレビ版で対立という結果になってしまった二人だが、今回劇場版ではものすごく仲良しな姉妹として描かれていたのでびっくりしたのだけど、よくよく考えてみるとテレビ版でも決して仲は悪くなかったよな……と思い直す。そもそも、みほが黒森峰を去った理由が戦車道中の事故によるもので、姉妹同士の確執というよりかは母親との確執の間にまほが挟まれてしまい、本心では妹を想っているものの、家系の名を継ぐものとして毅然と振る舞わなければならなかったので、本編では対立するライバルとして在ったのかなと思う。だからこそみほが実家に帰った時なんか憑きものが取れたような白ワンピで現れた時は「なんだこの破壊力は……」ってなってしまった。*7元々幼い頃から姉妹は大の仲良しで、お互いふたりで戦車に乗るくらい*8一緒にいたという事で、やっぱり家柄を除けば普通の家庭だったんだなという事が実感出来て安心した。というか黒森峰が味方に参戦した後でも、他校の皆が個性溢れる意見出しまくる中でも「隊長(みほ)の意見を聞こう」「隊長はどう思う」「隊長に従おう」とかなんかやたらと涼しい顔でみほを推しまくる辺り、本編以上にシスコン度が加速してて面白かった。黒森峰を離れて、そこから大洗で敵味方に分かれてしまって、今度こそ一緒にチームメイトとして戦車道が出来るっていうのが何よりうれしかったんだろうなというのがよく分かるし、何よりそこからのコンビネーションプレイが熱い。最初はお互い別部隊の司令塔として戦うが、後半敵味方が少なくなると合流、最後にはツーマンセル戦法として俊敏に動きまわる愛里寿の戦車に追随し、最後にはコンビネーション・アタックで勝機を手にした所なんか特に熱かったし、言葉を交わさなくとも分かる絆があったからこそ出来た連携だったんじゃないかなと思うと更に滾る決戦だった。

「戦車道には人生の大切なものが詰まっているんだよ」

 やたらと名言っぽい言葉を吐きまくるので知らない所でスピンオフの主役でも張っているかと思いきやただの新キャラだった継続高校の皆さんに突撃吶喊大好き知波単高校の皆さん。新キャラ*9に加え既存のキャラクターも相変わらずながら、些細な成長が見られたのが良かった。運転技術の向上に装填技術、状況分析能力に射撃技術、大洗だけとっても、まさしくみほの指揮だけでは無い、彼女が指揮するに値するぐらいプロフェッショナルな粋に突入しているのが見られて良かったし、そんな彼女達に感化させられて突撃脳だった知波単高校が戦術的な動きを覚えて初撃破まで持って行けたのには嬉しさを感じた。こういう戦いの中で少女たちが少しずつ成長していくのもガルパンだと思うし、劇場版と言う二時間程度の時間でそれが表現されていたのは素晴らしかった。やはり戦車道には人生の大切なものが詰まっている。

続編があるとしたら

 どうやら水島監督は続編に意欲的な感じらしく、万策尽きない程度にまだまだガルパンは続いて欲しい限り。今回、文部科学省の役人が二年後に開催される戦車道世界大会の話を示唆していたので、後はオリンピックの話とかも絡めてやっていけば、例えばみほやまほが日本代表に選出される世界大会とかも観られるかもしれないと、凄くワクワクする。他にもみほが黒森峰に居た時代の話とか、他の高校の話のスピンオフとか、まだまだ個人的にはコミカライズなどは追い切れてないけれど、ガルパンという作品が続くのならば、末永く彼女達の物語を追っていきたいと、そう素直に思える劇場版だった。ガルパンに関わった全てのスタッフ、そして大洗の皆様がた全てに感謝したい。そんな素晴らしい作品をありがとうございました。

パンツァー・フォー!

*1:特に戦車がジャンプして自走砲を破壊する辺り完全にウォーボーイズで、心の中のニュークスが「よく死んだ!」と叫んでいた気がする

*2:今回ばかりは爆発とか崩落とか倒壊とか戦車内の安全だけじゃどうしようもなさそうな事故が起きそうな予感がするけれど、この辺り戦車道的な安全管理はどうしているのだろうか。ツッこんではいけないお約束なのだろうか

*3:結局、西住母はまだみほの事を認めてはいないのだろうけど、大洗女子学園が西住流の指揮で勝利したという結果だけは認めているんじゃないかと思った。その結果が汚されてしまうということは、西住家の名前に傷が付くと言う事。断じてそれは許されない。

*4:最後の一騎打ちの時にクマ型ロボットが通り過ぎた所で、ふたりとも気を取られてしまったという部分が、二人とも戦車を度外視すれば年相応の少女だという事を表現していると同時に、島田愛里寿と西住みほが本質的に似た存在であることを示唆しているように思えた。

*5:愛里寿も凄いけど、いきなり今までのライバルを仲間として率いて尚且つ勝利にまで導いて涼しい顔しているみぽりんは、やはり何処か常人とは違う部分がある。衛宮切嗣的な、感情と理性を切り離して考えられる存在なのだろうか

*6:もっとも彼女の場合、母とは良好な関係のようだが

*7:普段黒森峰の真っ黒な制服着てるっていうのもあったけど、あの夏の日感やばいですよ

*8:どうやら田舎での移動はトラックではなく戦車が常識らしい。

*9:個人的にはローズヒップさんがお気にいりです。なんというか、おしとやかなのに性格悪いのが素敵。あとアイマス声優だし