402号室の鏡像

あるいはその裏側

『ノノノ・ワールドエンド』読了。

ノノノ・ワールドエンド (ハヤカワ文庫JA)

ノノノ・ワールドエンド (ハヤカワ文庫JA)

「世界なんて終わっちゃえばいい」暴力を振るう義父と受け入れるだけの母、良いことなんて何もない毎日に絶望する中学3年生・ノノ。彼女の願いをかなえるかのように、白い霧に包まれた街から人々は消え、滅びのときは数日後に迫った。望み通りの終末に怯えて逃げ出したノノは「世界が終わっちゃうのは、あたしのせい」と告白する白衣の少女・加連と出会う。そして少女二人きり、何処にも辿り着けないおしまいへ向かう旅が始まる。

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 緩やかな滅びが近づいてくる世界において、少女と少女はただ、終わりに向けて自転車を漕ぐ。

 何というか、凄く穏やかな雰囲気の小説だった。突如発生した謎の霧が世界を覆い、巻き込まれた人間は跡形もなく消滅してしまう中で、誰にも抗うことが出来ない終わりを、ただ目を瞑って受け入れるしかない状況。怪物が出るわけでもなくて、核ミサイルが空を飛ぶわけじゃない。ただ柔らかな霧に飲み込まれるだけで終わりが訪れる。苦しみも混乱もない中で、世界は少しずつ、さよならに向けて進んでいく。

 元々、自己を取り巻く世界の全てに諦めと絶望を抱いていたノノにとって、終末の訪れ自体はほかの人とは違い、何の感傷を湧き起こすものでもなかったのだけど、そんな彼女が、世界を終わらせた原因である少女、加蓮と出会う。

 曰く、世界はもうどうしようもないことになっていて、取り返しのつかない状況なのだけど、最後に会いたい人がいる。だから東京に行く。と加蓮は言った。ノノは成り行きで彼女についていくことになったのだけど、だからといって何が変わる訳でもない。世界は終わりに向けて歩みを進めているし、少女ふたりが終わりに抗う術もない。だから彼女たちはひたすらに自転車を漕ぎ続けるのだけど、その道中に、二人がかつて得られなかった幸福が満ち満ちていたのが、何より切なかった。天才がゆえに孤独だった加連。世界に居場所を見つけられなかったノノ。その二人が、お互いの欠けた場所を埋めあうように言葉を交わし、得られなかった友情や幸福に浸りながら、少しずつ霧の中を進んでいく。彼女たちが微笑みあっている間にも、霧は世界を覆いつくしていて、それでも少女たちは自転車を進め、そして終末に至る場所において、眠るような終わりを迎える。

 たぶん、いつか世界は本当に終わるのだけど、それが少女たちが微睡むような安らかな終末なのであれば、それもまた幸福な終末なのかもしれないと、そんなことを思った。

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 スーパーマーケットでひと悶着ある辺り、意識している気がする。もっとも、クトゥルー的な化け物は一切出てこないから安心してください。