402号室の鏡像

あるいはその裏側

メキシコめっちゃこわい『ボーダーライン』(原題: Sicario)感想

巨悪化するメキシコ麻薬カルテルを殲滅すべく、特別部隊にリクルートされたエリートFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)。
特別捜査官(ジョシュ・ブローリン)に召集され、謎のコロンビア人(ベニチオ・デル・トロ)と共に国境付近を拠点とする麻薬組織・ソノラカルテルを撲滅させる極秘任務に就く。仲間の動きさえも把握できない常軌を逸した極秘任務、人が簡単に命を落とす現場に直面したケイトは、善悪の境界が分からなくなってゆく。麻薬カルテルを捕えるためにどこまで踏み込めばいいのか?
法無き世界で悪を征する合法的な手段はあるのだろうか?得体の知れない悪を前に、知れば知るほど深くなる闇の行く末とは―。

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 予告編がなかなか良い感じだったので気になってたこの映画。結構面白かったです。メキシコとアメリカの国境を舞台にした麻薬戦争もの映画なのだけど、とにかく「悪には悪を」という空気が全体的に蔓延していて、従来のやり方じゃ社会に染みつく悪のシミは落とせないのだということがひしひしと詰まっている。町中には死体が転がり、カルテルのアジトを家宅捜索してみれば、その壁には死体がびっしりと詰まっている。味方かと思っていた警官が実は汚職に手を染めており、さらにその汚職警官は、日中は優しいパパだったりで、もう何が正義なのか、何が法なのか全く分からない。悪が社会に根を張ることで、逆に平穏がもたらされている節もあり、ひとたびボスが逮捕されれば街の治安が悪くなり、夜中でもパトカーが走りっぱなし。メキシコはそんな街で、だからこそその悪をただす為には従来の正義じゃ立ち行かない。目には目を、歯には歯を――そんなことが平然と行われている現場に、主人公のケイトが派遣されてくる所から物語が始まる。ただ、実際このケイトが話の傍観者でしか無くて、物語の核を握るのは、正体不明の協力者であるアレサンドロ。元検察官だった彼は妻子を麻薬組織に殺された過去があり、法を犯すことも厭わぬほどの復讐心を抱いていた。

 とにかく、映画全体の空気に「何が起こるか分からない無法な空気」が流れていて、突然発砲が起きたり拷問が始まったりと、かといって意気投合した相手が実はカルテルの一味だったりと、そんな奴らに対抗する為にもはや手段を選んでいられないという特別捜査チームの姿勢と未だ常識的なケイトの差が面白いところ。正直、もう少しケイトに見せ場を作ってやってほしかったり、銃撃戦自体に迫力を盛ってほしかったりと、そんな不満もあるけれど、こういう世界が現実に存在すると思うと恐ろしい映画だった。メキシコに行きたくなくなる。メキシコ超やばい。

『ボーダーライン』予告

 原題のSicarioとはスペイン語で『殺し屋』の意。このことを踏まえると、物語の裏主人公がアレサンドロということがよーく分かるんですけど放題は『ボーダーライン』。一応国境の話とか、善悪の境界を意味しているから変な邦題ではないけど正しいけど、原題のほうがずっといいと思う。

 これも少し似てる話で面白いです。警官コンビが麻薬絡みの陰謀に巻き込まれる実録LA24時みたいなPOV作品。