402号室の鏡像

あるいはその裏側

『ちーちゃんはちょっと足りない』読んだよ

どうやら『このマンガがすごい!2015』でオンナ編第一位を受賞したらしくて読んで見ました。前々から面白そうだなと思って気になってはいたんだけど手をつけていなくて、臨時収入があったので購入。

こういう漫画はあんまり読んだことがないのだけれど

「ちょっと足りない」と言うどころか結構な部分で同学年の友人たちと知能の差がでてしまっている「ちーちゃん」を中心に、女子たちのほのぼのとした学園生活が描かれるこの作品。明言はされていないけど、ちーちゃんは何らかの理由で知能の発達が遅れてしまっているいわゆる「知恵遅れ」として描かれているのは、読者にとってもすぐ分かる。しかしそれでいじめられているとかはなく、天真爛漫な彼女の性格ゆえにむしろマスコットとしてみんなと仲良くしている。だけれど、それ故に見え隠れしてしまうのが、すなわちちーちゃんに関わっている人達全ての本音。思春期に差し掛かった少女たちの多感さとは裏腹に、人格が未発達なちーちゃんは幼児のように純粋で、だからこそ彼女に触れていくうちに元気付けられるだけではなく、汚い自分を見つけてしまい、自己嫌悪に繋がっていく所がリアルだなぁ、と個人的には感じた。

 この作品はちーちゃんを、いわゆる「鏡」として機能させている気がする。例えばちーちゃんの近所で、多分一番仲良くしてる友達のなっちゃんは、ちーちゃんと付き合い続けて彼女の良さも勿論知っているが、家の貧乏さゆえに他の友達よりも苦労していて「どうして自分だけこんな目に遭うのか」と損したような気持ちを普段から抱えながら過ごしている。そういった境遇でお互いに「ちょっと足りない」部分が気があって、ちーちゃんと仲良くしている節がある。そういったこともあって、なっちゃんは友達作りもうまくなく、クラスメイトのヤンキーらしい女子にも怯えがちで、それでも懸命に生きている中で、本当に共感できるのはちーちゃんだけだった。彼女はちーちゃんを通して、おそらく自分自身に似たものを見ていたのだと思う。

多分、誰しもが「ちょっと足りない」

 それが裏切られる事件が後半にあるんだけど、それで結局、周囲の人間が自分より綺麗で正直で真面目だと気付いてしまい、彼女自身が絶望に陥る場面こそ、このマンガの真骨頂だと思う。貧乏で、パッとしなくて、何もうまくいかない。だけどそれはちーちゃんも同じだと思っていた。同じ穴のムジナ。自分だけを無条件に承認してくれる都合のいいキャラクター。それは本当に友達なのだろうか? 都合のいい相手に都合のいいことを押し付けて、自分だけの利己的な環境を造りあげているだけなんではないだろうか。多分それはまさしく僕たちと同じことを思っていて、現代社会になっちゃんみたいな悩みを抱えている人は多分多いと思う。だけれど、そんな主張は甘えだと一蹴されてしまうのがこの社会だ。貧乏でも、パッとしなくても、コミュニケーション能力が無くても、例え知能が遅れていたとしても。誰しもが「ちょっと足りない」部分を抱えて生きていかなければならない苦しさだけれど、ちーちゃんだけはそんな社会の中でも笑っていられる。だから「ちょっと足りない」彼女でも、いつも朗らかに笑っていられることが出来て、結果的に周りの幸せの種になれるんだろうな、とか思った。だから多分、周囲の人間も、ちーちゃんを通して色んな形の自分が見え隠れしているのに気が付いていく。そういうお話なんだと思う。

この作風がすごく自分の精神の隙間に這入り込んでくる感覚がしたのでハマる気がしてならない。