402号室の鏡像

あるいはその裏側

『キルラキル』最終(襲)回を終えて

 『キルラキル』が最終回を迎えました。

 一話からずっと観ていたこのアニメが最終回を迎えるという事で本当に胸が締め付けられるという思いで、その分自分がこのアニメを本当毎週楽しみにしていたんだなと言う事が分かる作品だった。実を言うと、一話二話を見てから、凄くクオリティが高い作品だと言う事に気付いてはいたんだけど、その情報量の多さが「見ていて疲れる!」という事で、録画したまま見るのを敬遠してしまった時期もあるのだけど、むしろこの作品の突拍子も無いノリに慣れてしまえばむしろそれこそが心地よい。

 今石洋之×中島かずきが手掛けた前作の『天元突破グレンラガン』が個人的には合わなくて途中で視聴終了してしまったのだけど、キルラキルの最終回感想を見ているうち「グレンラガンと同じ熱さで泣いた」とかいうかなり比較した絶賛コメントが見られたので、その点僕ももう一度グレンラガンを見直してみようかなと思えるきっかけにもなった。このスタッフが手掛けたものならば当然安心して視聴できるだろうし『グレンラガン』が『キルラキル』にどう繋がったのかそのルーツを遡って見たいと言う気持ちにもなった。

 正直言って僕はこういうアニメにはまったく興味がなくて、ぱっと見「スケバンヤンキーの喧嘩アニメかな?」と思っていたし、だからこそ序盤で少し視聴を止めていたと言うのもあるんだけど、作画と声優の演技の良さで引き込まれていくうちに、なんとまぁ、とんでもないSF展開になって言ったので物語の仕組みを動かすのが本当にうまいなぁ、と思った。はじめはただの学園内での姉妹ケンカだったにも関わらず、いつの間にか少女の背中には全人類、もとい地球と言う惑星の運命さえも背負わされていた。

 「人類の人工進化」「上位生命体による進化の促進」「外宇宙からの干渉」という点では『2001年宇宙の旅』や『星を継ぐもの』『幼年期の終わり』を想起させる内容で、当然それらにインスパイアされた『新世紀エヴァンゲリオン』に通ずる物語の展開でもあった。(制作陣がかつて在籍していたガイナックスからの繋がり)上位生命体と人類の一部が結託し、人類を単一の生命体として進化させ、新たなステージにシフトさせる。そう言った往年のSF展開に通ずる物語の要素を挿入しておきながら、序盤から最後までの暑苦しい(褒め言葉)雰囲気を逃さなかったのは素晴らしいと思う。多分こういう要素が無く、仮に熱いだけの展開だったら飽きてしまっていたと思うので、僕からしてみればキルラキルのSF展開は非常に好き。締め方も非常に良かった。

 あとは「不快なキャラ」がほとんど居なかったのも褒められる部分だと思う。当然、バトルものには正義と悪が存在しなければいけないのだけど、その分悪が卑劣になりがちで、その非道ゆえに視聴者が嫌な気持ちになってしまう事も大いにある。それが主人公側のモチベーションになるのは間違いないんだけど、視聴者からしてみればあまりそれは宜しくないと思う人もいるかもしれない。しかし『キルラキル』においての悪役――序盤は鬼龍院皐月とその部下である四天王、後半からその母である羅暁と、娘である針目縫に変わっていく。前者は実は悪では無く、真の巨悪が居ると言う事が判明し、後半のリボックス社の陰謀に立ち向かう展開にシフトしていく。

 この鬼龍院羅暁と針目縫のコンビが見ていて非常に気持ち良いと同時に主人公側からしてみれば絶対に斃さなければならない巨悪として書かれているのがうまい。下手に同情させられる展開や人間らしい感情表現を見せずに、ただ自らの野望を追求するためにあらゆる存在を毒牙にかけていく。彼女らの生存がイコール人類の破滅に直結している。『ジョジョの奇妙な冒険』から引用するならば「吐き気をもよおす邪悪」と形容するべきなんだろうけど、視聴者からしてみればその分同情の余地が一切無く主人公側が殴り込みにいける安心感がある。その点ひじょーうに悪役の立たせ方がよかった。ぼくは針目縫ちゃん!

 CV田村ゆかりというきゃっぴきゃぴのピンク色の声でナチュラル・ボーン・キラーっぷりをかましてくれるわ、時折非常に屈折したゲスい顔になるのがとっても僕好みで、正直途中からこの娘目当てでキルラキルを見ていました。当然皐月さまや流子ちゃんも非常にかわいいのだけど、ニコニコしながら主人公をボッコボコにするわそもそもからして流子の父を殺した真犯人だと言う事や、というか腹違いの姉妹だったと言う展で、重要ポジションでありながら、バーサーカーとしてのポジションを崩さなかった針目縫ちゃんは本当にかわいかったです。最終回でのキチっぷりも非常に素晴らしかったけど、せめてもうちょっとバトルさせて無惨に死んでほしかったな!とか思ってます。これぞ愛よ。

最終(襲)回としての魅せ方

 最終回は、おそらく羅暁と縫をぶっ殺して、当然地球を救うんだろうなぁと思ってたんだけど、当然の如くそうだった。ストーリー自体は後は締めるだけなのでどんでん返し自体には期待しなかったんだけど、その分いわゆる「様式美」を非常に大切にしていたと思う。何度も何度も復活する羅暁に対し、流子と皐月の二人で立ち向かっても勝てない。絶対服従により極制服を喪っても、生命繊維と同化した流子だけは裸で立ち向かう!その後独立して動いていた鮮血――そう、絶対服従能力の能力で拘束されていなかったのは、流子だけではなかった。流子と鮮血、ふたりは「服でもなく、人ではない」だからこそ、服として、人として戦う事も出来る。つまり、流子の父が作り出した決戦兵器は片立ち鋏だけではなかった。流子と鮮血、この二人こそ、生命繊維と人間のかけ橋になる。服であり、人である存在だった。
 
 そんな魅せるべくして魅せる戦闘、啖呵を切る流子のバックに流れるOPテーマ、そして宇宙を舞台に繰り広げられる戦闘の前に、全ての極制服の力を取りこんで進化する鮮血の最終形態。それがまた、もう一度蒼井エイルの『シリウス』がバックで流れながら変身するもんだから、こりゃあもう熱いったらない。僕の大好きな澤野弘之のBGMも良い所で流れてくる。

 最終回で提示された「服は服、人は人」というメッセージが凄く重要だと個人的には思って、他の生命体との共存を示しているのかなと思った。生命繊維は人間を取りこんでカヴァーズとして進化する訳だけど、原初生命繊維が在る以上、人類の進化を促している時点で人間との共存が不可能では無い。それがおそらく鮮血が人間の言葉を話せるようになる進歩であり、流子が生命繊維とシンクロしていた事の現れなのだなと思った。羅暁は生命繊維の力に火を注いで、全人類の生命繊維化と言うぶっちゃけ人類補完計画過激な計画に手を染めた訳だけど、結果的に同じく研究者であり夫であった流子の父が、全く反対の共存説をアンチテーゼとして提示したのはすっごく面白い事だなぁと思った。

 そして、全ての生命繊維から解放された人類は日常に帰る。鮮血との辛い別れや親子の戦いを経験した流子が、エンディングでごくふつうーの女の子として皐月さまやマコと楽しんでいるのがすごく微笑ましい。父を殺され、陰謀に巻き込まれて荒んだ青春を送ってきた流子や皐月が「ごく普通」の生活を暮らしていると言う事は彼女たちにとってとても大切な事で、やっぱりこれこそが物語として最良の帰結なんだろうと思った。だけど、ふと空を仰ぐ流子の視線がとても切ない。なぜなら帰ってきた日常の中には、一丁羅として、何より親友としてかけがえのない時間を共にした鮮血が居ないからだ。誰ひとりとして欠ける事の無かった戦いの中で、鮮血だけがいない。だけど広い宇宙の世界の中、散らばった繊維の中のひとつに鮮血がいて、ふとした瞬間に帰ってくるかもしれない――そんな流子の期待が胸に染みてしまうシーンだった。

 ひとつだけ心残りだったのが、流子と皐月さまの戦いが最後まで決着つかなかったことかもしれない。途中で斃すべき敵が変わった事もあるけど、そこはやっぱり最後にしっかり、二人は二人でわだかまり無く戦っておいてほしかったなとも思う。OPで切りあう二人がものっ凄くカッコいいので、後日談かなんかで剣道バトルでもしてくれませんかね。あくまで日常の延長線上と言う事で、でもやっぱ二人が戦わなくて済む世界って本当にいい。おそらくは本能寺学園は役目を終えて普通の学校になって、四天王達も受験勉強とかでいろいろ苦労することになるんだろうなぁ、蒲郡先輩とマコの恋愛はどうなるんだろうなぁ、とか想像に掻き立てられるラストなんだけど、やっぱり流子ちゃんと皐月ちゃんが仲良くしているのが、在るべき姿だったんだ。
 
 お話として綺麗に終わったので二期や劇場版は蛇足かな……とも思うんだけど、このスタッフが作ったアニメや流子ちゃんたちの活躍がもっと見たい!と思うので是非とも続きをお願いします。羅暁の言った通り、生命繊維は幾らでも宇宙に散らばっていて、また侵略される展開もあるかもしれない。あーっ、でも針目縫ちゃんはもう出ないんだよな……とはいえ素晴らしいアニメだったので、なんらかの形でこれからも続いてほしいとか思うので、これからも『キルラキル』を応援していきたいですね。そう思わせられる作品でした。

 
よく頑張ったトリガー!ありがとうトリガー!