「生きるってのは、他の誰かの命を喰らうってことだ」『仮面ライダーアマゾンズ』四話まで感想
【Amazon.co.jp限定】 仮面ライダーアマゾンズ 変身ベルトDXアマゾンズドライバー
- 出版社/メーカー: バンダイ
- 発売日: 2016/08/31
- メディア: おもちゃ&ホビー
- この商品を含むブログ (2件) を見る
ある街に人知れずアマゾンと呼称され、人を喰らう異形の存在が解き放たれた。その数、実に4000体。この元凶を生み出した野座間製薬は、系列企業・ノザマペストンサービスの駆除班に「アマゾン」を秘密裏に処理するように命じた。
仮面ライダーアマゾンズ - Wikipedia
これは、そういう状況を背景とし、ある清潔な家屋から一歩も外へ出ず穏やかに暮らす青年・水澤 悠と野生のカンと戦闘力だけを頼りとし、獣のように生きている男・鷹山 仁が出会ったことをきっかけに、徐々に明らかになっていく「アマゾンズ」の苛烈な生存闘争を綴った物語である。
平成一期を彷彿とさせる作風
『仮面ライダーアマゾンズ』を四話まで観た。あの有名な通販サイトAmazonが配信サービスで仮面ライダーを、それもアマゾンのリメイクをやると知った時はどんな洒落だよ*1と思ったのだけれど、いざ公開された時の予告を見た時の気合の入り具合に驚かされてしまった。平成一期、特にクウガやアギトなどのダークな世界観を彷彿とさせる、怪人が現代社会に紛れ込み、人々を襲い、食らう恐怖。それに対峙する特殊部隊の面々など、見るからにシリアスな大人向けの作風をひしひしと感じて「何かが違う」と予告編をひと目見ただけで分かる作りこみが感じられたので、今に至るまでずっと観たいと思っていた。その期待は大当たりで、いざ一話を観てみると、何の変哲のない民家に突入する正体不明の特殊部隊が静寂の中民家の階段を上っていくと、薄暗い家屋の中に潜む蜘蛛型の異形――アマゾン体との接触というように、冒頭からハードで凍てついた空気の世界観が感じさせる作りになっていて、なんというか、自分の中のボンクラ脳が喜び過ぎて無意識に口角が上がっていた。アマゾンアルファやオメガの戦闘スタイルも、敵の四肢をもいだり上半身と下半身を真っ二つにしたりと、出血や四肢切断描写などグロテスクな点にも妥協しない、Amazonプライムの配信サービスであることを利用したクオリティの高さも感じられる作りに加えて、海外ドラマを意識したカットの切り方や、物凄く続きが観たくなる引き、つまりクリフハンガー方式で物語が次回に続いていく締め方など、国内外の様々な要素を詰め込んだ、エポックメイキング的なものを目指した挑戦的な作品なのだなということが観ていて感じられる。
自分の中の仮面ライダー像って
本郷猛、つまり初代仮面ライダーがそうであったように、例えばキカイダーとかサイボーグ009など石ノ森章太郎作品に共通している概念において「例え人間で無くなっても、自身の正義を信じて人類の為に戦い続ける戦士」というのがあると思っていて、それが僕の中の仮面ライダー像なのだけど、正直平成二期の仮面ライダーはその要素を忘れて、単なる特撮ヒーローのアイコンとして使われている気がしていた。 *2勿論それを除いても面白い作品ばかりなのは承知していたが、やはり「改造人間」ないし「敵と同じ存在」でありながら「敵と同じ力」を行使して戦うっていうのが仮面ライダーの面白さなのではと僕は常々思っていた。その点、アマゾンズははじめから、仮面ライダーに変身する二人は敵と同じくアマゾン体であることが示唆されている。なんらかの陰謀で、知らずうちに自分の体がアマゾン体に変えられてしまっていた気弱な青年、水澤悠。対照的に好戦的でワイルドな性格でありながら、過去にアマゾン体の実験にかかわっていたことが判明する壮年の男性、鷹山仁。この二人が変身する仮面ライダーが、どう自らの内側に潜む獣を飼い慣らし、いかにして人間のため、あるいは自身が求める願いのために「仮面ライダー」として成り立っていくのかが、今から凄く楽しみ。特に悠の場合、今は状況に流されて戦っているに過ぎない状況なので、これから自分が一体何を求め、あるいは何を守る為に戦いに赴くのかが一番期待の要素かもしれない。
濃厚な描写の中に見え隠れするポンコツ要素
前述したようにクオリティの高さは文句のつけようも無いのだけど、ただシリアスなだけではなく結構コミカルな要素もあったりする。街に放たれた怪人、アマゾン体を狩るために組織された「駆除班」のメンバーは軍隊のようにお堅い感じではなく、傭兵崩れのような破天荒な感じで誰も彼もが癖のあるキャラクターで、戦い方も統率されてない感じがまた荒っぽくて観ていて飽きない。演出に関しても、時々銃撃のマズルフラッシュの特殊効果付け忘れてる部分が結構目立っていたりとか、若干変なところで「ん?」と思わせるようなところがあって*3、異常にクオリティが高いところと安っぽいところがなぜかいい感じの塩梅になっていて、よくよく考えるといつも見ているニチアサの仮面ライダーって大体こんな感じだよなという安心感もある。脚本を手がけている小林靖子作品は、例えば龍騎やオーズに関しても、最初は若干ギャグ多めで、キャラクターの個性もつかみきれないけど、最後にはきっちり物語の主軸に登場人物の個性が沿ってくれているので、若干の粗に関しても不安要素はゼロ。ただシリアスなだけでなく、シリアスな世界観の中に突如挿入されるギャグっぽさがまたアマゾンズの魅力でもある。
ここからどう物語が転んでいくのか
四話終了の時点で、悠は戦う理由もわからないまま、ただ状況に流されるままにアマゾン体駆除を続けるためにオメガに変身するわけだけど、それが彼の中に潜むアマゾンとどう折り合いをつけ、本当の戦う理由へとシフトしていく流れが気になる。そもそもアマゾン細胞とは何なのか、野座間製薬の本当の陰謀とは、そしてなぜ仁は野座間製薬から脱走して、アマゾン体を狩る為にアルファに変身して戦うようになったのとか、あらゆる登場人物のバッグボーンが明かされていくことにこれから期待している。グロテスクな要素や陰謀論的な大人向けのドラマなど、日曜朝では出来ないことにこだわって、新しい仮面ライダーの流れにアマゾンズが変わっていくことを個人的には期待してる。
- アーティスト: 小林太郎
- 出版社/メーカー: COLUMBIA
- 発売日: 2016/04/15
- メディア: MP3 ダウンロード
- この商品を含むブログを見る
『ランボー 怒りのアフガン』を観ました。
ランボー3 怒りのアフガン [Blu-ray] シルヴェスター・スタローン,リチャード・クレンナ,マーク・デ・ヨング,ピーター・マクドナルド NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン 売り上げランキング : 13717 Amazonで詳しく見る by AZlink |
『ランボー 怒りのアフガン』を観ました。
ベトナム戦争後の帰還兵を描いた風刺的映画として若きシルベスター・スタローンを『ロッキー』に次ぐスターにのし上げた作品として有名だけれど、二作目以降人気に乗じた娯楽路線に走ってしまって、一作目の絶賛とは裏腹、世間的にはあまりよろしくない評価を頂いてしまっているという若干不憫なシリーズ物。2008年に公開された『最後の戦場』で原点回帰的なテーマでかなり高評価を得たのだけれど、一作目と四作目の間の『怒りの脱出』『怒りのアフガン』はどうにも世間的には低評価……だったらしい。『怒りのアフガン』以外は全部見ていたのだけど、今作だけ鑑賞する機会が得られなくて、先日テレビでやっていたものを録画して見た。
それでも個人的には二作目も大好きで、確かに一作目の社会風刺的側面は薄れてしまったものの「裸でM60軽機関銃を叫びながら撃ちまくる筋肉マッチョ」を描いた映像的インパクトが世の中に与えた影響は滅茶苦茶デカイのではないかと個人的には思っていて*1、他にもキリングマシンとして育てられてしまったランボーが戦場にて愛を知るという点でも物語に十分面白見はあるし、娯楽性が高まったということがイコール作品の魅力低減につながるとは到底思えなかった訳で、結構楽しんでいた。
んで今日『怒りのアフガン』を見た。相変わらずストーリー的にはひっそりと一目を忍んで暮らしていたランボーをどこからともなく現れたトラウトマン大佐が「アフガニスタンが大変だからやっぱ戻ってきてくれへんか」と元部下のランボーに勧誘する流れ。当のランボーは「もう俺の戦争は終わったんですよ」と言いつつも、戦いへの情熱は未だ燻っているという二律背反な状況。だけれどトラウトマン大佐の元で兵士として戦う自分を拒絶して、大佐もそんな彼を受け入れて帰っていく。と思いきやそうは問屋は下ろさない訳で、任務の為にアフガニスタンに向かったトラウトマン大佐が現地のソ連兵に捕虜にされてしまった。その事実を知った途端ランボーは掌がえしで助けにいく、という話の流れ。
実際にあまりにもランボーの心変わりが早くて正直戸惑ったのだけれど、よくよく考えると行動原理としては一貫している。ランボーは兵士として戦う自分を拒絶していただけであって、トラウトマン大佐という「友人」を助けにいく為の戦いなら幾らだって構わないのだと考えると物凄く納得がいく。ベトナムの時はただ言われるがまま訓練にてプログラムされたキリングマシーンとして戦った挙句自己を喪失してしまったランボーは、再び戦場に戻り、誰かの指示を受けて戦った挙句昔の自分に戻る事が怖かったのだと思う。だけれど、トラウトマン大佐は恩師であり恩人であり、そして無二の友人だ。自己の判断で、自己の正義の元戦うのならば、ランボーは何処でだって如何無くその力を行使出来るのだと思う。実際、ただの戦闘機械ではなく子供に優しくしたり、現地兵との信頼を築いたりと随分と人間らしくなっていて、そこが過去のランボーとの違いなんだなと、明確に表現されていた気がする。多分それは『最後の戦場』でも同じで、彼は彼自身の正義と善悪感に則って戦う正しさを見いだせるようになったのではないかなと個人的には思う。
アクション的な続編としても、AKや機関銃など銃火器で無双するのは当たり前に、ランボーらしく闇に紛れてナイフやアーチェリーで連続ステルスキルで敵兵を恐怖に陥れるシチュエーションが存分に描かれていたのは凄く良かった。ドンパチ映画的な娯楽感と、人間的な成長が見られた三作目として、もっと早く見ておけばよかったと思わざるを得ない。*2
ランボー ベストバリューBlu-rayセット シルヴェスター・スタローン NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン 売り上げランキング : 44033 Amazonで詳しく見る by AZlink |
ランボー 予告編
80年代映画だけれど古さを感じさせない良作なので、興味がある人は一作目だけでも観てみる事をお勧めします。絶対損はしない。
*1:『メタルギアソリッド3』でスネークにM60を撃たせるとおんなじ事をやるんですよ
*2:個人的に、シュワルツェネッガーとスタローンは銃とかより裸でナイフ持たせた方が絶対強い
2015年に読んだオススメ本
今年読んだ中で面白かった小説をベスト5形式で振り返ってみたい。是非皆さんにも読んでみて欲しいので、ネタバレは含まずに書きます。一応、今年出たというより今年に読んだ本なので、古い本もあるけどご容赦を。
2015年に読んだ本ベスト5
1 チャーリー・ヒューマン『鋼鉄の黙示録』
- 作者: チャーリー・ヒューマン,鷲尾直広,安原和見
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2015/03/12
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (6件) を見る
2 吉上亮『パンツァークラウンフェイセズ』
- 作者: 吉上亮
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/05/24
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (5件) を見る
3 藤原祐『レジンキャストミルク』
- 作者: 藤原祐
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/05/24
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
4 らきるち『絶深海のソラリス』
- 作者: らきるち
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / メディアファクトリー
- 発売日: 2014/06/23
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
5 辻村深月『ハケンアニメ!』
- 作者: 辻村深月,CLAMP
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2014/08/22
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (17件) を見る
本当はお勧め映画でも書きたいのだけど、少し時間がないのでこの辺りで……それではみなさん、よいお年を。
2015年を振り返って
色んな事に挑戦し、色んな事に挫折して、苦しみ抜きながらもなんとかの着地を得た一年だった。
なりたいものにはなれなかったし、自分にその素質や実力が足りない事が分かってしまったのが辛いのだけど、これから先人生を生きていく中で、本当になりたいものになる為に、今やらなければならない事は何かということを少しずつ見極めながら、来年から社会人やっていきたいと思う。多分、辛いことやきつい事も多い2016年になるとは思うけれど、どうにかして足掻いていきたいな、とか思う。
ただ、つらいことだけじゃなくて、ツイッターとかで仲良くなった人と実際に遊びに行ったり飲んだりして、布教したりされたりで作品の幅とか人間関係の広がりを得た年でもあったので、そういう意味でも色んな人と関わり合って行きたい。その為にツイッターとかブログとか、SNS的な繋がりもこれまで以上に大事にしていきたい。もっと創作仲間とかも欲しいしね。
抱負としては
・作家デビュー(前提として、その為に賞やら投稿何やらで一年で三本以上長編を書きあげたい)
・同人活動、同人イベントデビュー(アイマスやら何やらで、好きなことで同人イベントに出てみたい。その為の英気を去年は失っていたので、今年から生き返ったつもりでやってみたい)
・更に同人ショップに委託できるようなペースとクオリティを目指したい。
・小説投稿サイトにコンスタントに更新出来るような、連載形式の作品も書いてみたい。
こんな所ですかね。社会人になって時間は削れど、それで夢を妥協してしまっては元も子も無いので、あくまで二十代のうちに物書きデビューという野望だけは忘れずに生きていきたい。
「遠い昔、遥か彼方の銀河系で……」『スター・ウォーズ フォースの覚醒』感想
スター・ウォーズ/フォースの覚醒 オリジナル・サウンドトラック(初回スリーブ仕様) John Williams WALT DISNEY RECORDS 売り上げランキング : 39 Amazonで詳しく見る by AZlink |
映画を超えた史上空前のエンターテイメント『スター・ウォーズ』、その新たなる3部作の第一弾。
スター・ウォーズ|STAR WARS|
ジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグ―ハリウッドが生んだ偉大なる巨星たちの才能を継ぐ、J.J.エイブラムスの「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」がベールを脱ぐ。はるか彼方の銀河系で繰り広げられる、家族の愛と喪失の壮大な物語。その歴史は、新たなるヒロイン、新たなる仲間たちによって、≪新たなる3部作≫として、真新しい1ページを開く。
家族を知らず砂漠の惑星で孤独に生きるヒロイン、レイの運命が、新型ドロイドのBB-8、戦うことに疑問を抱く兵士フィン、そして、フォースの暗黒面の担い手、カイロ・レンらと交わる時、銀河の命運を賭けた戦いの渦中へと導かれる。
果たして、真のフォースに目覚める者は、誰か…?その行く末を今、世界は固唾を飲んで待っている。
──その時あなたは、新たなる伝説の目撃者となる。
新たなる伝説の始まり
『スターウォーズ フォースの覚醒』を観てきました。ネタバレ込みの感想記事なのでご注意を。
僕が初めてスターウォーズという作品に触れたのがおそらく幼稚園か小学校入学位の年齢で、確かEP1公開時の盛り上がりを肌で感じていた世代だったと記憶している。テレビの再放送で見てからハマりにハマり、マスタークワイ=ガンのライトセーバーを買ってもらったりもして、まだ小さいながらもあの世界観に惹きつけられていたのは間違いない。ニンテンドー64で出てた『帝国の影』とか『出撃!ローグ中隊』やポッドレーサーのゲームなんかも楽しんでいたし、そこからEP2が公開して、その後EP3が公開した。僕はこの時初めて劇場でスターウォーズを鑑賞する体験が出来たのだけれど、正直その十年後に、まさか最新作をこの目で観られる日が来るとは思っても見なかった。旧三部作に加えプリクエル三部作でアナキン、そしてルークの物語は閉じて、その後あの銀河がどうなるかだなんて、想像すれど現実に作品が作られるだなんて、つい先日まで現実的な話では無かったのだけど、いつの間にやら公開日が来てしまっていた。
あの日と変わらない感動が、そこにはあった。
そんな事を思いながら、僕は胸の高鳴りを抑えながら劇場の席に座った。予告編*1が終わった瞬間「遠い昔、遥か彼方の銀河系で……」の青い文字が出た次の瞬間『STAR WARS』のタイトルロゴがバーン!と視界一杯に広がり、そしてメインテーマと共に今作のあらすじ*2が出てくるこの流れ。まさしく僕が初めてスター・ウォーズをテレビの再放送で見た頃、そして初めて劇場でEP3を見た時と全く同じ感動が、そこにはあった。内容の如何にせよ、スター・ウォーズという作品はあのタイトルとジョン・ウィリアムズのメインテーマの時点で百点あげられる作品なのだと言うのはひいき目過ぎるだろうか……そんな事を想わされる程に、僕の心は震えていた。
ジェダイ、シス、トルーパー、パイロット、そして歴史に名を残した登場人物達
考察サイトや感想でも良く言われているが、振り返って見ると『フォースの覚醒』という物語はEP4の流れをなぞっているのは間違いない。砂漠に住む若者が、アストロメク・ドロイドと出会い、運命に翻弄されるままに宇宙への大冒険に出ることになり、そして自らの出生に関わる戦いに巻き込まれていく……というプロットは、EP7においても同じだ。だけれど違うのは、この物語は多くの登場人物の視点、ジェダイだけではない、さまざまな人々の場所から語られているということだと僕は感じた。 EP1〜EP6に至るまでは、登場人物が多けれど、基本的にはルークやアナキンの視点で一貫して物語が語られ、その中でレイアやハン・ソロ、ダース・ベイダーの物語が次々と語られていき、物語が肉付けされていったように思えた。
しかし今回のEP7では、のっけから多くの登場人物が物語を縦横無尽する。レジスタンスの拠点にてファースト・オーダーの襲撃に抵抗するエースパイロットであるポー、その彼が捕まった際、オーダーのやり方に疑問を抱いたストーム・トルーパーのフィン。フィンとポーの大脱出劇から今度は砂漠で誰かを待ちながら暮らすレイと出会い、そこからまさかのミレニアム・ファルコン号の登場。宇宙への冒険に出たと思ったら、ついに過去の英雄ハン・ソロと出会う。そして黒幕として暗躍するシスの暗黒卿、カイロ・レン……とのように、最初から多くの人物が各々の物語を生きている。主軸となっているのはフィンとレイではあるが、脇役と言いきってしまうには勿体ない過ぎる程の物語が登場人物ひとりひとり*3に与えられており、彼ら単独だけでスピンオフを製作出来る程の濃い味付けだったことが印象的だった。新しい登場人物は勿論のこと、ハン・ソロやレイアをはじめとした旧シリーズの登場人物も変わらない名役として登場しており、新キャラの役目を喰う事なく、それでいて強い存在感を示している絶妙なバランスだったことも、EP7の良い所だ。まぁ、何が言いたいかというと、旧三部作でルークが担っていた、人間としての成長やエースパイロットとしての活躍、ダークサイドへの誘惑やフォースの目覚めという役割を多くの人々に分散させていたんじゃないかと言う事で、まさに全体としての物語を底上げしているように思えた。最初から少しずつ登場人物が増えていき、最後の決戦で敵味方が縦横無尽する、この群像劇テイストこそ、まさにスター・ウォーズ作品の魅力である。
『フォースの覚醒(THE FORCE AWAKENS)』と言うタイトルの意味
『フォースの覚醒(THE FORCE AWAKENS)』というタイトルが示すように、EP7と言う物語は主人公であるフィン、そしてレイ。この二人がかつて失われた力である「フォース」に触れ、冒険を通じてその才能に覚醒していく物語だというのは明らかだ。レイに関しては分かりやすく、今作では明らかに成らなかったものの、彼女がおそらくジェダイの血族であることは明白で*4最初は全くそういった素振りを見せないものの、ミレニアム・ファルコンを初搭乗で難なく乗りこなしオーダーのTIE・ファイターを振りきったり、また捕まった際もカイロ・レンのフォースに拮抗し、更に彼の精神に這入り込むまでの強さを見せた。拷問に耐えた所かトルーパーを精神操作し脱走*5、カイロ・レンとの一対一の戦いでも、最初は凄腕のカイロに圧倒されていたものの、フォースの流れを味方に付けると達人の如きライトセーバー捌きで*6彼を圧倒し、まさしくかつてのルークやアナキンのような強さで暗黒面の戦士を打ち倒すまでに成長した。成長性で言えば暗黒面の戦士をたった数日で倒すまでの実力を得たという意味で、アナキンやルークを超える才能の持ち主として、レイは『覚醒』したのかもしれない。
フィンに関しては明確にフォースを感じるまでは行かなかったものの、戦闘経験が薄いにも関わらずTIE・ファイターやミレニアム・ファルコンのブラスターで次々と敵機を撃墜したりして、EP4のルークを彷彿とさせる活躍ぶりを見せていた。本来はオーダーのやり方に恐怖や疑問を抱く脱走兵のポジションで、当初はただ単にオーダーから逃げる事を考えていただけだったが、ポーやレイ、ソロやレジスタンスの各々と一緒に行動するうちに、正義の使命感に目覚めていく意味での「覚醒」かもしれないし、レイ程では無いもののライトセーバーを使用したりで、将来的にジェダイへの覚醒する可能性も十二分にある程に、高潔な精神の持ち主だと感じた。彼自身、自分の身もとや名前も分からないほどの幼少時にオーダーに誘拐されトルーパーとしての訓練を受けたと言う事でその出生にも謎があり、もしかしたらスカイウォーカーとは別に、フォースの強い家系の生まれなのかもしれない。そう言った意味でも続編で期待出来るキャラクターでもある。
ダース・ベイダーから、そしてカイロ・レンへ
予告編から印象的だったシスの暗黒卿、カイロ・レン。マスクを被ったその姿はまさしくかつて銀河で最強を誇った暗黒卿であるダース・ベイダーを彷彿とさせ、十手型ライトセーバーと共に話題沸騰の存在だった。その正体に関して多くの憶測を呼んだが、実際作品内で明かされて見ると、やはりスカイウォーカーの血族であるとして、予想の範疇内ではあったもののかなり衝撃的だった。*7ベン・ソロと言う名前でルークに修行を受けたが暗黒面の誘惑に負けてしまった存在として描かれており、更にかつての存在であるダース・ベイダーに心酔しているという描写も印象的だ。ルークに修行を受けたが実際に影響を受けたのはアナキン・スカイウォーカーであり、更にダークサイドに居ながらも未だライトサイドの影響を受けており、その矛盾や自信の能力の足りなさに苦悩している存在として、絶対的な強さがあったベイダーとは違う、苦悩する人間らしさがあった。ミステリアスな存在であったベイダーとは違い、正体自体も早目に明かされるし*8、またベイダーを知っている僕ら視聴者側からしてみれば、絶対的な悪役ベイダー卿というより、善と悪の間で揺れ動くアナキン・スカイウォーカーを連想するのが近いのではないかと思う。甘いマスクを持ちながらも気性は荒く、自分自身に納得がいかない様子はEP3のアナキンを彷彿とさせ、彼がどのような人生を送ってきたのかを考えさせられてしまう。新たな世代を担うジェダイとして、英雄の血族として、弟子として。成長と才能を過剰に期待されていたそんな自分だったからこそ、アナキンに自己を投影し、ベイダーに憧れるようになっていったのかもしれない。そして暗黒面の誘惑を受けたのかもしれないと思うと、単なる悪役として片付けられないほどのキャラクターになってくる。ハン・ソロとの関係*9に関しても、またルークとベイダーという親子関係を意識しているのは間違いないだろう。とにかく、ダース・モールやドゥークー伯爵、ベイダーやシディアスと言った今までのシスとは全く違う「人間らしい」悪役が生まれたのは間違いない。ベイダーの如きダークサイドを突き進むとしても、アナキンのようなジェダイになるにしても、これからが楽しみな悪役が生まれてくれたのだ。
『新たなる希望』と『帝国の逆襲』を一緒に観たような感覚
前述したように、導入部分は間違いなくEP4をなぞっているのだけど、とにかく過去作を意識させられる演出は非常に多かった。砂漠の惑星から始まり、帝国の戦艦から脱出、更に水と緑の惑星にレジスタンス基地があったり雪原での空中戦や惑星破壊兵器への潜入破壊と、EP4だけじゃなくEP5まで贅沢に盛り込んだようなゴージャスさがあった。僕は基本的に反乱軍の歩兵戦やX-ウイングを始めとした空中戦大好き人間なので、エンドアやホスの戦いを描いた『帝国の逆襲』がシリーズの中で一番好みだったこともあり、今回はそういった意味でも大満足だった。メカニックに関しても、例えば改良型のX-ウイングはレジスタンス仕様の落ち着いたカラーリングに、更にエース仕様というのが一発で分かる黒とオレンジ色のポー専用機などミリタリー面でもこだわり抜いた描写で、更にそれを駆るレジスタンスのパイロット達も、ポーを始めとして歴戦のエースだというのが分かる。物語としても、序盤でフィンと一緒に脱出したはずのポーが行方不明になり、死んだと思っていたらフィン達の危機にX-ウイング編隊で駆けつけ、撃墜王の名を欲しいままにするほどの活躍を魅せてくれた。勿論それだけでは無く、ミレニアム・ファルコンとTIE・ファイターのチェイスに加えてライトセーバーバトルも充実であり、不慣れだったレイが圧倒されるだけではなく、戦いの中でカイロ・レンに負けないほどに成長していくと言う事で、正直かなり燃える展開だった。それにも関わらず、旧三部作を見た時とは全く違い、現代の映画として新しい感覚で物語を捉えられるというのは凄い事だ。過去の映画の続編という位置づけながらも、全く新しい映画としても成り立っていると思うと、ふと懐かしさと新鮮さが同時に込み上げて来て、本当に不思議な気分に思えてくる。
ハン・ソロの死、そして新たなる物語の始まり
正直、この物語で一番衝撃を受けたのがハン・ソロの死だった。*10ハリソン・フォードが再びスター・ウォーズに出演するというのが一番の盛り上がりだったし、更にレイアも揃うということで夫婦での共演、物語の途中からはカイロ・レンの父親だったということが判明し、まさにハン・ソロはもう一人の主人公と言っても過言ではないほどの重要人物だった。そんな彼がいとも簡単に殺されてしまったことに、僕は衝撃を受けたと共に、この物語が本当に前に歩み出していくのだということを、ひしひしと感じた。オリジナルキャストでは無く、新たな物語としてこれからレイやフィンが新たな歴史を背負っていくこと。かつて誰かを守る為に亡くなった高潔な戦士オビ=ワンやクワイ=ガン、そしてアナキンのように、ハン・ソロは若者達を救うために戦い、そして自分の責任を果たす為にカイロ・レンもとい、ベン・ソロに正面から向き合った。勿論、監督もシリーズの中でトップクラスに人気だったハン・ソロというキャラクターを殺すのには勇気と決断があっただろう。しかしそれは、ルーカス三部作からの決別を含め、作品やキャスト共々、新たなるスターウォーズ・サーガを生み出す為に、必要だったことなのかもしれない。
そして、エピソード8へ。
R2D2とBB8が持っていた地図を合わせると、失踪したルーク・スカイウォーカーの居場所が遂に分かった。昏睡するフィンに別れを告げ、大切な友人を失ったチューバッカと共に、ミレニアム・ファルコンを駆りルークの元に向かうレイ。緑と水の惑星に向かうと、そこにはフードを被った壮年の男性が。そう、彼こそかつて銀河を救った英雄、ルーク・スカイウォーカーその人なのだ――と言う一番物語が面白くなりそうな所で、EP7は幕を閉じる。おそらくはかつてのヨーダの役割をルークが担い、マスターとしてレイを修行する流れになるのだと思うのだが、ここから先は全く予想が付かない。レイ自身の血統の秘密や、かつてのカイロ・レンのようにレイが暗黒面に誘われる流れにもなりそうだし、昏睡状態のフィンが目を覚ましたら一体どうなるのか、そして敗北を喫したカイロ・レンが再び敵として立ちはだかるのか、それとも新たなる脅威が現れるのか……と思うと、今から心のワクワクが鳴りやまない。しかし、新三部作の一作目でこの素晴らしさなのだ。今はEP7の余韻を胸に置きながら、僕らはただ、フォースに身をゆだねるだけでいい。
「“May the Force be with you.”(フォースと共にあらんことを)」
レゴ スター・ウォーズ ポーのXウィング・ファイター[TM] 75102 レゴ (LEGO) 売り上げランキング : 53 Amazonで詳しく見る by AZlink |
スター・ウォーズ Xウイング・ファイター レジスタンス仕様 1/72スケール プラモデル バンダイ 売り上げランキング : 26 Amazonで詳しく見る by AZlink |
http://www.amazon.co.jp/registry/wishlist/2TD70O902PZV9/ref=cm_sw_r_tw_ws_UtTFwb0CE8T7R
*1:吹き替えで観たのだけど、全く演技に安心できるキャストで芸能人テロとかなくてほっとした。ちなみにルフィも出なかった
*2:正直「ルーク・スカイウォーカーが失踪した」という一言で始まるあらすじの時点で勝ちだと思う。あれほど活躍した英雄が消えたというのに「えっ、何で!?」と不覚にもワクワクさせられてしまった。
*3:個人的にはトルーパー指揮官のキャプテン・ファズマが好き。あのくっ殺姫騎士感は大事にしてあげたい。シリーズ初の女トルーパーで有能なはずなのにポンコツなのもかわいい。やはりポンコツはトルーパーの系譜なのか
*4:カイロ・レンに拮抗し、打ち倒す程のフォースを覚醒させた才能から、スカイウォーカーの血族であることは間違いないだろう。ルークの娘、もしくはカイロ・レンの姉か妹、つまりソロ家の娘なのではないか。旧三部作を意識しているならばソロ家の双子で、カイロ・レンが彼女の家族と明かすシーンがあるかもしれない
*5:どうやらここで精神操作されたトルーパーの中身は007で有名なダニエル・クレイグだったらしい。あまりにポンコツなので全然わからなかった。
*6:このライトセーバーはかつてアナキンが使っていたもので、ルークがオビ・ワンから貰い、デス・スターで落としたものだが、一体どこで回収されていたのだろうか。それも気になる
*7:続編的位置づけの小説版においてはルークの息子ベン・スカイウォーカーやハン・ソロとレイアの間に双子がいたとして、もしかしたらそれを意識しての話だったのかもしれない。だとすれば尚更カイロ・レンとレイの双子説が極まってくるのだが
*8:正直正体を早めに明かしたのは英断だと思う。大体この時代のジェダイと言えばスカイウォーカーの血族だし、それを引っ張ってもファンには見透かされてしまうだろうし
*9:暗黒面に堕ちるのを防ぐ為にルークに修行を任せたと言っていたが、スリルを求めて密輸業に復帰していたハン・ソロを思うにやはり子育てに関してもレイアやルークに任せきりな人間だったのだと思う。父親として不適合そうなのは旧三部作を見ていても思ったが、だからこそ最後に丸腰で、父親としてベンに向き合おうとしたのだろう。もっとも、それが遅すぎたのだが。
*10:とりあえず、高い所から落ちたというのはルークのように生存フラグかもしれないが、ライトセーバー突き刺さってるし、惑星爆発してるし、ねえ