402号室の鏡像

あるいはその裏側

下村 智恵理『エンド・アステリズム』

 

“これは――新しい、セカイ”

 

 僕はセカイ系が好きです。

 少年少女の思春期的感情に左右される世界の破滅を描いた作品が数多く乱立された90年代を思い出す作品。エヴァが確立した構図を解体して作り出された“簡易版エヴァ”としての在り方が僕の中でのセカイ系の定義だけど、大人が介入出来ない運命の選択が、子供達(東浩樹が言う所の『きみとぼく』)に任せられてしまう捻じれた不自然さが好きなのかもしれない。狭い子供の視点には親も大人も見えてないからね。

 とりあえずそれは置いておいて、久しぶりにセカイ系作品に耽溺した。興奮した。んでルンルンな気持ちでAmazonレビューを観たら散々たる評価。

『エヴァ』『エヴァのパクリ』『衒学的』

 ――だからどうした。

 主人公の名前が“五雁(イカリ)”だからって(僕も初めは驚いたけど)それはオマージュの範囲内。第三新東京市綾波レイも人造人間も地下都市も出てこないし、そんな事言い始めたらハルヒもイリヤもファフナーも全部エヴァです。それらをひっくるめたエヴァの子供である『ポストエヴァ』作品というカテゴリが正しいのであって、“パクリ”だから“駄作”と決め付けてしまうにはこの作品は勿体ない。(ただでさえ僕はAmazonレビューが嫌いなので顔真っ赤にしてます)

 人生全てに絶望を抱いた少年少女が、宇宙全体を司る上位知性体”リジェンタイル”に選ばれ、地球、あるいは世界の存在を害する敵、”ディセンター”と、過去の傷口を滲ませながら戦っていく物語を、現代に映し出し、尚かつ上位知性体のテクノロジーと共存させながら創り上げていく作者の手腕に喝采。

「物質の無差別同一化(ロスト・アイデンティファイ)」「超次完全素子揺動、熱化顕現」「フォン・ノイマンランダウアー欠陥化小体」

 常人に理解出来るはずのない、竜型ロボット“リジェンタイル”から提示される厨二ワード(実際登場人物も理解できていない事が起きている)と、少年の慟哭が衝突し、生まれたのが『エンド・アステリズム』という作品。ディックやクラーク、アシモフのエッセンスが文章の隙間隙間から滲み出るセンスが本当にいい。

 まぁ長ったらしい文章はどうでもいいので、上に挙げた単語にビビっと来た14歳的思考のキミは是非読んでみよう。多分、エヴァ好きな奴ほど合う合わないがハッキリ分かれると思う。柔軟な思考を持とう。

 

P.S. 自分の周りにファフナーを語れる人がいなくてつらい。